荷風

2017年12月 5日 (火)

永井荷風展  講演会&対談

市川市文学ミュージアムで開かれている永井荷風展の開催イベントのひとつ、講演&対談に122日、行ってきた。講師は川本三郎氏、対談者は持田叙子氏。先着240名とのことなので、早めに行くと、待つ人のために椅子が30脚ほど並んでいた。最後に2つ空いた椅子があったので坐って待った。こういうときはスマホをいじっている光景がほとんどだが、珍しいことにひとりもいない。さすが荷風ファンというか、いや、年寄りが多いというか…。会場はほぼ満席であった。

川本氏は最初に荷風の家系が旧幕派の武士だったことが荷風の精神形成に影響しているとのお話をされた。荷風研究のこれまでにない観点であった。文体も漢籍の素養のある士のものであり、好対象として、下町生まれの町人文化の中で育まれた谷崎潤一郎の文章とは一線を画していると。後半は持田叙子氏との対談形式で荷風の作品についての見解やエピソードをいろいろ。川本氏は『荷風と東京』で町を歩く荷風を、持田さんは『荷風へ、ようこそ』『永井荷風の生活革命』などで、家の中や庭にいる荷風に着目した人。持田さんのお話は荷風忌や國學院大學で聴いているが、お姿も話し方もとても愛らしい方。おふたりとも新しい荷風像を生み出した人である。

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2017年11月22日 (水)

永井荷風展を観る

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荷風さんが「断腸亭日乗」の日記を書き始めたのが1917(大正6)年9月、今からちょうど100年前のことになる。その起筆百年を記念した展覧会が市川市文学ミュージアムで開かれている。前から心待ちにしていた展覧会だ。市川は荷風さんが戦後の昭和21年から亡くなる34年まで住んだ場所である。このミュージアムには市川荷風忌や資料室の利用で何度か足を運んでいるが、本八幡の駅から少し離れているので、歩くのが苦手な人にはちょっと不便かもしれない。展覧会場は混んでいるかもしれないと、平日の午前中にしたが、閑散としていて拍子抜けした。おかげでゆっくり、じっくり、観ることが出来た。
展覧会のコンセプトは「荷風の見つめた女性たち」。作品に描かれた女たち、荷風さんと関わりのあった実在の女たちを彼女らが生きた時代と社会のなかで捉えている。川本三郎氏の監修。『断腸亭日乗』の実物やメモ帳、谷崎潤一郎や阿部雪子の書状や珍しい写真を観ることが出来て、大いに満足。展示目録によると、約1週間ごとに、日記の開頁が違う。ちょうど行った日は、あの有名な「馴染みを重ねたる女一覧」の頁を見ることが出来た。残念だったのは、展示の仕方がチマチマしていて、スペースの問題もあるのだろうけれど、もう少し工夫がほしかったなと思ったこと。展覧会は2018年2月18日まで。
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2017年10月23日 (月)

台風21号の襲来で…

先週末は式根島ハイクに行く予定だったので、衆議院総選挙も初めて期日前投票を済ませたのだったが、超大型台風21号の列島直撃のため中止に。で、読書と映画でのんびり過ごした。本は川本三郎著『老いの荷風』(白水社)。久しぶりの荷風。これまでに発表したものの寄せ集めなのかなと思ったら、半分は書き下しで、読み応えがあった。『ふらんす物語』発禁本(初版)の行方の話はじつに興味深かった。荷風が戦時中に発表の当てがないのに書き継いでいた作品に焦点を当てて論じたものも新鮮だった。川本氏の荷風は優等生の解釈になりがちだが、いつも気持ちよく安心して読める。とくに散策者としての荷風についてはこの人の右に出る人はいない。

今年は『断腸亭日乗』起筆百年ということで、113日から市川市文学ミュージアムで荷風展が開かれるが、楽しみだ。

 

映画は無料Gyaoで「氷点」を観た。三浦綾子の小説の映画化で、これはたしか朝日新聞の賞金一千万円の懸賞小説の受賞作。監督山本薩夫、出演は若尾文子、船越英二、安田道代、森光子、山本圭、津川雅彦ら。人間の原罪という重いテーマだが、映画はどうしても表面的な説明になってしまう。若尾文子が美しい。森光子の演技が断然うまく光っていた。

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2017年5月 4日 (木)

2017市川・荷風忌

53日、持田叙子さんの講演があるというので、これは是が非でも行かねば、と市川の市川市文学ミュージアムまで行ってきた。市川・荷風忌は去年に続き2回目。持田さんは「荷風の見つめた女性たち」のテーマで荷風文学に登場する女性たちを三本の系譜に分けてお話しくださった。①清らかな少女 ②自立心をもつ知的女性 ③都会で働くアソビの世界の女性。私は実在の人物についてを期待していたのだが、でも持田さんのお話はその女性像を独特の視点から分析してくださって、面白く拝聴した。とくに森鴎外に褒められたという文壇デビュー作の『地獄の花』、それ以前の「いちごの実」「夕せみ」「四畳半」など、純白のユリに象徴される少女への憧れを表現したという作品解説は持田さんらしい見方だし、うなずける話だった。

今年は荷風が断腸亭日乗を書き始めて100年目にあたるのを記念して、11月にこのミュージアムで「荷風の見つめた女性たち」という企画展が催されるという。なんでもこじつけますね。今回はそれに先駆けた講演会だったよう。

講演のあとは、昨年に引き続き、俳優座女優の長浜奈津子さんが、ひとり語り「ひかげの花」を演じた。語りはすばらしかったが、去年の三味線からアコーデオンに替えての演奏は、これはない方がよかった。それにしても朗読が流行ってますね。

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去年、ミュージアムで求めたカタログ

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2017年5月 3日 (水)

2017荷風忌

今年も浄閑寺に行ってきました。13時の受付に、12時半にはすでに列ができていました。やはり私を含め年配者が目立ちます。法要のあと、朗読家・内木明子さんの耳で読む永井荷風――朗読「すみだ川」。休憩10分を挟んで80分の長丁場。内木さんのプロフィールによると、内木さんは学生時代から幸田幸子氏に師事、舞台をはじめ、大学や社会人向けの朗読講座でも広く活動されているそう。口をはっきり動かした明瞭な話し方で、それぞれの登場人物がいきいきと描きだされました。

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2016年5月24日 (火)

吉野俊彦著『永井荷風と河上肇 』を読む

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初めて読む本と思っていたが、読み始めたら随所に読んだ記憶があって困惑した。Ciさんからお借りしたのだが、困ったものである。今後もこういうことがありそう。

さて、この同じ著者の『永井荷風の経済学』は読んだ記憶がはっきりあって、読書記録もある。著者はその『永井荷風の経済学』を執筆しているときに、荷風の日記『断腸亭日乗』と似た記述が河上肇の日記にもあることに気付き、類似点を探し出したのがこの本の生まれるきっかけとなった。

本の帯に「四角四面のマルクス経済学者と女三昧の無頼の作家」とあるように、まるで共通点などなさそうなふたりだが、著者は、荷風と河上肇が同じ年の生まれ(1879年)であること、フランスに滞在、ドヴィッシーの音楽に出合う、大学教授に、全集がベストセラーに、反軍国主義者、戦時下の生活物資不足とインフレ進展の詳細な日記をつけた、森鴎外を尊敬、などつぎつぎと類似点を挙げていく。内容の三分の二は河上肇にウェートをおいた印象。河上肇という私には到底縁のない人のことを知ることができたし、同時代を生きた二人を対比させることで、その時代をより重層的に捉えることができて面白く読んだ。(2001 NHK出版) 

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2016年5月 5日 (木)

市川・荷風忌に行ってきた

毎年53日に市川市文学ミュージアムで開かれる。今年で8回目。私は初めて参加。講演は相模女子大学教授、南明日香氏の「荷風と明治の都市景観」と休憩を挟んで劇団俳優座女優、長浜奈津子氏のひとり語り「玉の井 大江匡とお雪」。

20世紀初め、荷風はアメリカとフランスに滞在、計画的に建設された都市に身を置いた経験から、大きく変貌する東京の姿に憤りを感じながらも、荷風流に街歩きを重層的に楽しんだ。『日和下駄』(1915年)の文章などをテキストにスライドを見ながらのお話。

長浜氏のひとり語りは着物姿に三味線。「六月末の或夕方である。梅雨はまだ明けてはいないが、……」と始まってアレッと驚いた。電車のなか、開演前にパラパラと『濹東綺譚』を読んでいたのだが、ちょうど読み終えたところから始まったのだ。長浜氏のお雪は優しく柔らかい。濹東綺譚』を繰り返し読んでいる私には、お雪のイメージが勝手に出来あがっているせいか、どうもぴたりとこない。もう少しちゃきちゃきの感じであって欲しかった。映画の山本富士子は本文には「あなた」とあるのを「あんた」と呼んで、こちらはかなり頑張っていたが、この女優も私の趣味ではない。220席ほぼ満員。私を含め白髪が目立った。

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2016年5月 2日 (月)

2016荷風忌 荷風さんを偲んで歩いてきた

4月30日は荷風さんの命日。三ノ輪の浄閑寺で荷風忌が執り行われた。午前中、東向島のかつての玉の井界隈に足を伸ばし、『濹東綺譚』に登場する、細い路地裏の荷風さんが通ったと思えるお雪の家あたりを想像して散策した。荷風さんが初めて玉の井を訪れたのは『断腸亭日乗』によると昭和7年、54歳の時。当時の面影などもちろん皆無だが、東向島の駅前には昔ながらの個人商店が軒を並べ、下町の風情が色濃い。向島百花園の藤はもう盛りを過ぎていたけれど、荷風さんはじめ文人墨客が愛でたこの庭はきれいに整えられた気配がなく、自然な趣が残されているところがいい。

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午後1時30分からの法要と講演会。今年の演目は日本近代文学研究家の宮内淳子氏による「若き日の荷風と上海 父・漢詩・日本と中国」。宮内氏は荷風がご専門ではないとのことだったが、外国で過ごした作家たちを共同研究したなかで荷風の上海を担当されたとのこと。ざっくばらんなお話しぶりで、荷風年表から関連項目をシンプルにピックアップして示して下さり、たいへんわかりやすかった。

荷風は父親の仕事の関係で17歳の時に上海に遊び、19歳の時に「上海紀行」「滬(こ)遊雑吟」を発表、56歳の時も「十九の秋」で上海の思い出を好意的に書いているのだが、あいだの31歳の時に書いた「若き反抗心」では上海を散々にこけおろしている。このトーンの違いは何故か、と疑問を呈している。また、上記19歳と56歳の作品を、年齢差を考慮せずに並列で論じてしまったところは再検討の余地ありと自らの反省材料として語った。日中の関係、日清戦争や清朝滅亡、満州事変等との関連も興味深いものがありました。

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2015年5月 4日 (月)

2015年荷風忌

430日、三ノ輪の浄閑寺へ。法要のあと若いおふたりの講演があった。高野麻衣氏の「荷風、ふらんす音楽の夢」と多田蔵人氏の「永井荷風の読書」。正直なところ高野氏の話は期待していなかったのだが、じっさいは荷風の読書の話よりも私には興味深いものだった。

 

荷風は1900年代初頭にアメリカ、フランスに滞在、ニューヨークでは毎晩のようにメトロポリタン・オペラに通い、西洋の近代音楽を日本にいち早く紹介した人だが、荷風がその頃に聴いたと思われる音楽を聞きながらのお話がよかった。ラ・ジョコンダの間奏曲、タンフォイザー、愛の妙薬……時代を一気に超えていま荷風と同じ音楽を共有しているという想い。音楽の力はすごいです。

 

一方、荷風の読書とはどんなものだったか、能動的読書だったとして多田氏はいくつかの本文例や図資料を提供して下さったが、そりゃそうだよねという感じで、ややインパクトに欠けた。氏は現在のお住まい鹿児島から空輸便でたくさんの貴重な関連書を持参され、会場の座席右端から、あるいは左端からと惜しげなく回覧された。その古書コレクションはなかなかのもので、研究者はたいへんなものだなぁと。ちょうど真ん中に座った私は講演が終わるまでのあいだに、残念ながら一冊も手にすることはできなかった。

新鋭のおふたりがそれぞれ今回のテーマを軸にさらに研鑚を積まれ、新しい荷風をみせてくださることを期待したい。

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2015年3月22日 (日)

加藤郁乎編『荷風俳句集』(岩波文庫)を読む

自選荷風百句(実際は118句)に718句を加え、さらに狂歌95歌も加えて通し番号で931作品、それに小唄他、漢詩、随筆、写真と俳句、を含めて全体が構成されている。編者の詩人・俳人加藤郁乎は残念ながら20125月、この本の刊行を待たずに亡くなられたが、俳人荷風をみごとに浮き彫りにしてくれた。そして私にとっては荷風の俳句がどうこうというよりも、漢詩や俳句が文章家荷風の礎となっていることがよく理解できたし、池澤一郎氏の解題がたいへん参考になった。

 

荷風は20歳の時から亡くなるまでの60年、俳句に親しんだ。「人生には三つの楽しみがある、一に読書、二に好色、三に飲酒と『日乗』かどこかに書いてあったが、みずから恃むところ高き散木荷風には文事淫事を問わず市井人事のことごとくが四季とりどりの句となり得た、それでよいではないか。」と郁乎は書く。

色町や真昼しづかに猫の恋 荷風

下駄買うて箪笥の上や年の暮れ 荷風 

同書で随筆として掲げてあるのが「雪の日」。私はこの作品の湿り感、浮世絵の江戸を観るような情趣が好き。このなかにも小唄や俳句が効果的に使われている。荷風の作品は随筆か小説か区別できないところがあり、随筆体小説などといわれるが、「雪の日」は小説のようでもある。

 

荷風撮影の写真と俳句の組み合わせもうれしい。大正から昭和初期の下町の景色、建物や看板、風俗がよく分る。

 

先にこのブログ(201310月)で加藤郁乎著『俳人荷風』を採り上げたが、荷風の俳句にそれほど注目してはいなかった。しかし最近、俳句に少しばかり興味を持ち始めたこともあって、わたしの荷風はまたまた深間に陥ってたいへんである。

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