書籍・雑誌

2019年10月 5日 (土)

へいわとせんそう

先日、早朝のラジオ深夜便で谷川俊太郎さんのお話を聞いた。87歳のご高齢であるにもかかわらず、声も話し方も昔と変わらず若々しいことにまず驚いた。そして言葉の端々にさすが詩人だなと感心し、寝床でぼんやり聞き始めた私はすっかり目が覚めた。近ごろは忘れっぽいのでメモをとった。今年3月出版された絵本「へいわとせんそう」のことなど。谷川さんってすごい人だなと改めておもった朝だった。

・言葉には意味が付きまとう。いま、われわれは意味にがんじがらめになっている。その点音楽は言語以前ということで意味がないから心地よい。詩は言い足りない方がよい。

・体の衰えがはっきりしてきたが、歳をとったことの長所を考える。寛容になる、考えが深くなっている、本でも若い頃に読み過ごした部分が心に響くことがある。人生の味わいとして面白い。私自身が自然、自然に逆らわない。詩を書くのが今は一番楽しい。詩は草花のような存在。意味の世界で自分を成長させてきたが、歳をとると、意味よりも存在しているものが一番大切。属性よりも生きものとしての人柄が大事。存在をどこまで感じ取っているかが歳をとって分かってきた。

・絵本「へいわとせんそう」のタイトルはふつうは戦争と平和というけれど、それを活かして、平常は平和であるべきところに非常として戦争があるから平和と戦争にした。このタイトルのアイディアはよかったと思う。戦争の在り方が複雑になっている。平和にも奥に戦争が隠れている。隠している。

取り敢えず、図書館で「へいわとせんそう」を借りてきた。絵本は谷川さんの言葉もNoritakeさんのピクトグラムのような絵も、これ以上シンプルな表現があるかと思えるほどシンプルの極みなのに、深くて説得力がある。イメージが広がる。見開きで左右のページを対比させながら、へいわとボク、せんそうとボク、へいわのチチ、せんそうのチチ、へいわのハハ、せんそうのハハ、へいわのぎょうれつ、せんそうのぎょうれつ、へいわのくも、せんそうのくも、みかたのかお、てきのかお…etc. せんそうのくもだけは写真だった。この絵本、未来の大人にプレゼントしようと思う。

 

 

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2018年8月10日 (金)

内田洋子著『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』を読む

内田さんの作品は大分以前から注目していて何冊も読んでいるが、関心がいまイタリアから別のほうに移っていて、しばらくご無沙汰していた。オカさんが面白かったとわざわざ電話で知らせてくれたので、えっ、本の行商の話なの、面白そう、と、さっそく読んだ。

ヴェネチアの古書店で聞いた話に著者の心が動き、老店主の「行ってみることですね」で、好奇心は全開、トスカーナ州の小さな山村モンテレッジォに赴く。そこの村人は、代々イタリア中に本を届ける職人だった。なぜ? 小さな村と本が結びつかない。取材を重ねるうちに見えてくる本の行商の歴史、次々と広がっていく登場人物。まるで謎解きの推理小説のような面白さがある。登場する人たちはみな控えめながら確固たる信念と哲学を持つ人たちばかりだ。

じつはこのモンテレッジォのことはイタリアでもあまり知られていないらしく、そこに光を当て、膨大な資料と取り組み、現地で取材を重ねて記録した著者のねばり強さには脱帽あるのみ。貴重な記録文学である。間に散りばめられた写真も想像力を掻き立ててくれる。

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2017年9月20日 (水)

川上弘美著『ぼくの死体をよろしくたのむ』を読む

ひさしぶりに小説の面白さを味わった。この人の作品をそれほど読んでいるわけではないが、作品全体から漂ってくる雰囲気が好きだ。削ぎ落とされた文体がいい。登場人物もみな不思議で魅力的だ。女性誌に連載されたものらしいが、表題の「ぼくの死体をよろしくたのむ」を含め18篇の短編集。もう一冊『猫を拾いに』もタイトルにひかれて読み始めた。

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2017年6月 5日 (月)

小川軽舟著『俳句と暮らす』を読む

毎日新聞を購読しているが、毎日俳壇の選者の一人が小川軽舟さんである。俳句欄に目を通すことなど以前はなかったが、五七五日記と称して川柳をはじめてから、気にかけるようになった。毎日俳壇の4人の選者のなかで、軽舟さんのセンスが私にはいちばんピッタリくる。その人が書き下ろした本である(中公新書)。奥付を見ると、軽舟さんは1961年生まれ、現役のサラリーマンでもある。俳句だけの世界の人ではない、そんな雰囲気が選句にも表れているように思え、現代性と親しみを感じている。

「俳句は忘れ去っていく日常の何でもない記憶を蘇らせてくれるものだ。……五七五に限定された言葉が直接指し示すものの情報量はわずかだが、それをきっかけに引き出される記憶の情報量は限りを知らない。」ホントにそう思う。十七音字の不思議な力を実感させてもらいました。軽妙な味わいがあり、読んでいて気持ちの良い本でした。 

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2017年3月22日 (水)

坪内捻典著『ヒマ道楽』を読む

川柳をはじめてから、俳人・坪内捻典さんの毎日新聞朝刊コラム「季語刻々 今昔」を愛読するようになった。毎日一句を採り上げ、その解釈がなかなかにユニークなのである。『ヒマ道楽』はそのネンテンさんの最新刊。あとがきによると、「ヒマとカタカナで書いているのは、この言葉に肯定的積極的な意味をもたせたいから」とある。新聞のコラム連載「モーロクのススメ」からまとめたもののようだが、飄々としたお人柄がにじみ出ていて、明るくて、ちょうど今ごろの時期の春うららのいい気分になる。

たとえばこんな文章。「定年退職して、ぐずぐずする余裕が十分に与えられる。それって、とてもいいことなのかも。若い時には時間的余裕がないので、ぐずぐずを中途半端にしてしまった。それが私の実感だが、この際、おおいにぐずぐすしてみたい」とか「若い人はいい。しなやかだし、つややかだ。足は速いし、よく食べる。老人もいい。つつましく、どっしりしている。足は遅いし、あまり食べない。若い人も老人もどっちもいいなあ。あっ、もしかしたら、若い人の中には老人がいる? 同じように老人の中には若い人がいる? うん、いるのだ、確かに。すてきな若い人は、自分の中に老人を住まわせている。魅力的な老人は、自分の内に若い人を抱え込んでいる。……」素敵でしょ。

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2016年5月 5日 (木)

村田沙耶香著『消滅世界』を読む

最近、人工知能AIartificial intelligence)という言葉をよく耳にする。先日の毎日新聞にもオランダの画家レンブラントの全作品346点を人工知能で詳細に解析して創作した肖像画が発表された。これは誰の作品ということになるのだろう。また人間のシェフが思いもつかないような65種類の創作レシピの料理本も発売された。それでも今回の熊本地震のような地震予知がいまだ的確にできない。想定外の自然には到底かなわないということか。人工知能が人間を超えるのはいるごろか、とその道の専門家にアンケートしたところ2040年~2050年頃という答えが一番多かったという。30年後どんな世の中になっているのだろう。

近未来ということで言えば、最近読んだ本、村田沙耶香さんの『消滅世界』がリアルな感じがした。人工授精で妊娠・出産するのが当たり前の世のなかで、その先に展開される世界を描いている。著者の言葉として「夫婦間のセックスがなくなる世界を書きはじめたら、恋愛や家族までどんどん消えて行った。物語の力に引きずられて、コントロールできなかった」と語っていて、興味をそそられた。ちょっとSF的だが、でもすでに身近な問題だ。主人公の女性は父と母が昔のスタイルで愛し合って生まれた稀な存在。母親はあなたもそうしなさい、とずっと言い続けている。友だちには自分がいわゆるセックスで生まれてきたとは言えないでいる。彼女は人とも人でないもの(キャラ)とも恋愛を繰り返して大人になって行く。結婚するが、結婚は安定のためで、夫婦間ではセックスのような不潔なことはしない。夫の科白「家の外は僕の恋と性欲で汚れている。家の中だけは清潔な僕でいられる。人生で一番大切なのは家族だよ」が示すように、家族を性的な目で見たり、恋愛の対象にしたりしない。お互い外に恋人を持つ。不倫や浮気を肯定してむしろ上手くいくようにお互いに応援する。

千葉に実験都市があって、そこには「家族」というシステムがない。毎年一回コンピュータで選ばれた住人が人工授精を受け、人口がコントロールされている。男性も希望すれば人工子宮を付けて受精できる。生まれた子供は15歳までセンターで管理される。ここに住む大人はすべての子供のお母さんになる。これが楽園エデンシステム」。主人公の夫婦は消滅しかかっている恋やセックスのまねごとを続けていたが、その限界に達し、恋のない世界に逃げようと千葉の実験都市にやってくる。そして夫が妊娠して、みんなのお母さんになって行く。主人公の母親は主人公に「あなたには愛し愛されて子どもを産むデータが残っている」というのだけれど…。

こんな物語だが、現に周りを見渡しても家族は崩壊して個の単位になりつつあるし、人工知能と共存していくとおそらくこの小説のような世界になるのではないか。男と女の関係は太古の昔から変わらないというけれど、人類の大きな転換期、危機? に晒されているように思えてくるのである。

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2016年3月14日 (月)

川本三郎著『東京抒情』を読む

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様々な雑誌に書いた「東京」についての文章がまとめられた一冊。「歩く東京」、「思い出の東京」、そして小説や映画、絵画などに「描かれた東京」。懐かしい東京の姿。とくに銀座については興味が尽きない。銀座界隈には数寄屋橋、京橋、三原橋、万年橋、新橋…、と橋があり、川が流れていた。アドバルーン、デパート、画廊、路地裏、そして映画黄金時代の銀座など。いいな、いいな、と読みすすむにつれ、歩くことの好きな著者は、東京の川沿いを荷風さんのように歩く。なかでも東京の西の川、残堀川を見つけた驚き、その川を辿る旅がいい。地図も入っていて歩きたくなる。以前、この人の『荷風好日』の文庫本を手に荒川放水路に沿って歩いたことがあった。

作家が住んだ町、小説の舞台も満載だ。たとえば「文士が体験した関東大震災」では、永井荷風、谷崎潤一郎、芥川龍之介、佐多稲子、林芙美子、井伏鱒二、北原白秋、菊池寛、そして映画監督の黒澤明などのエピソードが惜しげもなく出てくる。 この人の書く「荷風」が好きだ。この本にも荷風さんが頻繁に登場する。何だかとても得をした気分になった。

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2016年3月 7日 (月)

又吉直樹×堀本裕樹『芸人と俳人』を読む

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文芸誌「すばる」に2012年から2年間連載されたものの単行本化。お笑い芸人の又吉さん(昨2015年、『火花』で芥川賞を受賞、すでに作家先生だが)が俳人の堀本さんの弟子になって、俳句の手ほどきを受ける形。俳句は怖いけど面白いという又吉さんを相手に、俳句の基本、俳句との親しみ方、句作、そして句会、選句、吟行までを丁寧に解説・実践していく。対談形式の堀本さんの進め方がうまいため、又吉さんの持ち味がよく出ている。

近ごろ私も、五七五日記と名付けた俳句でも川柳でもない17字文を作っているので、ド素人に参考になることがずいぶんあって面白かった。メモしたこといくつか。 ・歳時記を引きまくれ。季語の本意と本情を理解する。 ・朝顔の紺の彼方の月日かな(動詞を節約する 三大切字「や」「かな」「なり」) ・すべて理解できる俳句は魅力がない。違う読み解きがあるんじゃないかという句は光る。 ・ランボーを五行とびこす恋猫や 寺山修司 ・吟行はその日だけで終わらない  ・上田五千石 まねぶ 真似して学ぶ  ・型の中で自在になる。

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2015年12月27日 (日)

内田洋子著『イタリアのしっぽ』『皿の中に、イタリア』を読む

この人の本は『ジーノの家』『ミラノの太陽、シチリアの月』『カテリーナの旅支度』を読んだ。イタリアに根を下ろし、さまざまな種類のイタリア人との交流を描く。日常生活を通して彼らの生き方を鋭く優しく受けとめる著者の目がいつも面白い。とくに代々つづく家柄とか金持ちの暮らしぶりなどふつうには知り得ないイタリアの奥深さも垣間見られる楽しさ。

 

『イタリアのしっぽ』は動物をテーマにした連載エッセイを一冊にまとめたもので、犬や猫やエトセトラが必ずチラッと出てくる。無理にこじつけているなと思えるところもあって、そこらへんがつまらないのは確か。またネタ探しにあちこち動き回っているようでたいへんだなという感じも伝わってきたりする。一方『皿の中に、』の一冊は食にまつわる話の連載をまとめたもの。プーリアやサルデーニャ、リグリアなどの地方料理やマンマの味、漁師のおすすめ料理、イワシを200匹も揚げたダイナミックな話など。動物の話より、こちらのほうが断然いきいきしている。たしかに「食べることは生きることだ」。いずれにせよ読みはじめると瞬く間に内田洋子の世界に浸れる楽しみがある。つぎは『どうしようもないのに、好き』を読む予定。

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2015年12月 1日 (火)

ミランダ・ジュライ著『あなたを選んでくれるもの』を読む

Img003_551x800この類の本、とくにアメリカの翻訳本は滅多に読まないのだが、図書館から借りて読んだ。たぶん新聞の書評を読んですぐ予約したのだと思う。9月に予約したから2カ月待ち。奥付を見ると8月25日発行で9月20日に2刷とあるから読まれている本である。著者はパフォーマンスアーティスト、ミュージシャン、作家、女優、そして映画をつくったり、脚本を書いたり、とマルチに活躍している人のようだ。

 

本書は脚本執筆に行き詰まった著者がいつも愛読しているフリーペーパーの「売ります」の広告内容にひらめき、そこに広告を出している未知の人物に次々と会いに行くという、そのインタビュー集である。もちろん、取材依頼の電話をかけてもたいていは断られたと言うから、ここに登場する10人は選ばれた人たちだ。さすがアメリカ、なんでもありで強烈な個性の人たち。彼らのポートレイト、売りに出した品物、部屋の様子などの写真も掲載されていて、バタ臭さが漂ってくる。黒革ジャケット10ドル、ウシガエルのオタマジャクシ1匹2ドル50セント、写真アルバム1冊10ドル、コンエア社のドライヤー5ドル、クリスマスカードの表紙部分のみ50枚1ドル……。ミランダの柔らかな感性がそれぞれの人生を見事に引き出していく。そしてネット社会に身を置いていた彼女が会うはずもなかった生の人物、現実に接していくさまは映画のように面白い。岸本佐知子さんの翻訳がすてきなせいもある。

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