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2016年5月 5日 (木)

村田沙耶香著『消滅世界』を読む

最近、人工知能AIartificial intelligence)という言葉をよく耳にする。先日の毎日新聞にもオランダの画家レンブラントの全作品346点を人工知能で詳細に解析して創作した肖像画が発表された。これは誰の作品ということになるのだろう。また人間のシェフが思いもつかないような65種類の創作レシピの料理本も発売された。それでも今回の熊本地震のような地震予知がいまだ的確にできない。想定外の自然には到底かなわないということか。人工知能が人間を超えるのはいるごろか、とその道の専門家にアンケートしたところ2040年~2050年頃という答えが一番多かったという。30年後どんな世の中になっているのだろう。

近未来ということで言えば、最近読んだ本、村田沙耶香さんの『消滅世界』がリアルな感じがした。人工授精で妊娠・出産するのが当たり前の世のなかで、その先に展開される世界を描いている。著者の言葉として「夫婦間のセックスがなくなる世界を書きはじめたら、恋愛や家族までどんどん消えて行った。物語の力に引きずられて、コントロールできなかった」と語っていて、興味をそそられた。ちょっとSF的だが、でもすでに身近な問題だ。主人公の女性は父と母が昔のスタイルで愛し合って生まれた稀な存在。母親はあなたもそうしなさい、とずっと言い続けている。友だちには自分がいわゆるセックスで生まれてきたとは言えないでいる。彼女は人とも人でないもの(キャラ)とも恋愛を繰り返して大人になって行く。結婚するが、結婚は安定のためで、夫婦間ではセックスのような不潔なことはしない。夫の科白「家の外は僕の恋と性欲で汚れている。家の中だけは清潔な僕でいられる。人生で一番大切なのは家族だよ」が示すように、家族を性的な目で見たり、恋愛の対象にしたりしない。お互い外に恋人を持つ。不倫や浮気を肯定してむしろ上手くいくようにお互いに応援する。

千葉に実験都市があって、そこには「家族」というシステムがない。毎年一回コンピュータで選ばれた住人が人工授精を受け、人口がコントロールされている。男性も希望すれば人工子宮を付けて受精できる。生まれた子供は15歳までセンターで管理される。ここに住む大人はすべての子供のお母さんになる。これが楽園エデンシステム」。主人公の夫婦は消滅しかかっている恋やセックスのまねごとを続けていたが、その限界に達し、恋のない世界に逃げようと千葉の実験都市にやってくる。そして夫が妊娠して、みんなのお母さんになって行く。主人公の母親は主人公に「あなたには愛し愛されて子どもを産むデータが残っている」というのだけれど…。

こんな物語だが、現に周りを見渡しても家族は崩壊して個の単位になりつつあるし、人工知能と共存していくとおそらくこの小説のような世界になるのではないか。男と女の関係は太古の昔から変わらないというけれど、人類の大きな転換期、危機? に晒されているように思えてくるのである。

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