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2016年5月

2016年5月24日 (火)

吉野俊彦著『永井荷風と河上肇 』を読む

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初めて読む本と思っていたが、読み始めたら随所に読んだ記憶があって困惑した。Ciさんからお借りしたのだが、困ったものである。今後もこういうことがありそう。

さて、この同じ著者の『永井荷風の経済学』は読んだ記憶がはっきりあって、読書記録もある。著者はその『永井荷風の経済学』を執筆しているときに、荷風の日記『断腸亭日乗』と似た記述が河上肇の日記にもあることに気付き、類似点を探し出したのがこの本の生まれるきっかけとなった。

本の帯に「四角四面のマルクス経済学者と女三昧の無頼の作家」とあるように、まるで共通点などなさそうなふたりだが、著者は、荷風と河上肇が同じ年の生まれ(1879年)であること、フランスに滞在、ドヴィッシーの音楽に出合う、大学教授に、全集がベストセラーに、反軍国主義者、戦時下の生活物資不足とインフレ進展の詳細な日記をつけた、森鴎外を尊敬、などつぎつぎと類似点を挙げていく。内容の三分の二は河上肇にウェートをおいた印象。河上肇という私には到底縁のない人のことを知ることができたし、同時代を生きた二人を対比させることで、その時代をより重層的に捉えることができて面白く読んだ。(2001 NHK出版) 

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2016年5月22日 (日)

エルマンノ・オルミの「緑はよみがえる」を観る

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あの「木靴の樹」のエルマンノ・オルミ監督の最新作。オルミ監督が父親から聞いていた戦争の話を映像化した。
1917年冬、第一次世界大戦さなかに体験した実話。とはいっても派手な戦いが描かれるわけではない。ほとんどが厳寒の過酷な環境の塹壕の中で繰り広げられる兵士たちの日々だ。暗い画面がずっと続く。芝居の舞台のよう。

死と背中合わせの兵士たち、生きて帰還しても、あとは死を引きずって生きることになる彼ら。唯一の楽しみは家族や恋人からの手紙だけ。なぜ人間同士がむごい戦いをするのか。

自然には緑の季節が必ず訪れるように、人の世界にもそんな日がよみがえるのか。生死の際におかれた時の信仰の力を感じさせられた。戦争を美化も誇張もなく描いて見せたところは井上ひさしの「父と暮らせば」に共通したものを感じた。

 

オルミ監督の映画は40年近く前に「木靴の樹」、数年前のイタリア映画祭で「ポー川のひかり」を観ているが、忘れることのできない場面が多い。「木靴の樹」の豚や鶏を処理する場面、「ポー川のひかり」の散乱した夥しい古書すべてに釘が打ちつけてある場面など。今回の映画では冬の美しい山と満月。そこに響く歌。岩波ホールで。

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2016年5月 5日 (木)

村田沙耶香著『消滅世界』を読む

最近、人工知能AIartificial intelligence)という言葉をよく耳にする。先日の毎日新聞にもオランダの画家レンブラントの全作品346点を人工知能で詳細に解析して創作した肖像画が発表された。これは誰の作品ということになるのだろう。また人間のシェフが思いもつかないような65種類の創作レシピの料理本も発売された。それでも今回の熊本地震のような地震予知がいまだ的確にできない。想定外の自然には到底かなわないということか。人工知能が人間を超えるのはいるごろか、とその道の専門家にアンケートしたところ2040年~2050年頃という答えが一番多かったという。30年後どんな世の中になっているのだろう。

近未来ということで言えば、最近読んだ本、村田沙耶香さんの『消滅世界』がリアルな感じがした。人工授精で妊娠・出産するのが当たり前の世のなかで、その先に展開される世界を描いている。著者の言葉として「夫婦間のセックスがなくなる世界を書きはじめたら、恋愛や家族までどんどん消えて行った。物語の力に引きずられて、コントロールできなかった」と語っていて、興味をそそられた。ちょっとSF的だが、でもすでに身近な問題だ。主人公の女性は父と母が昔のスタイルで愛し合って生まれた稀な存在。母親はあなたもそうしなさい、とずっと言い続けている。友だちには自分がいわゆるセックスで生まれてきたとは言えないでいる。彼女は人とも人でないもの(キャラ)とも恋愛を繰り返して大人になって行く。結婚するが、結婚は安定のためで、夫婦間ではセックスのような不潔なことはしない。夫の科白「家の外は僕の恋と性欲で汚れている。家の中だけは清潔な僕でいられる。人生で一番大切なのは家族だよ」が示すように、家族を性的な目で見たり、恋愛の対象にしたりしない。お互い外に恋人を持つ。不倫や浮気を肯定してむしろ上手くいくようにお互いに応援する。

千葉に実験都市があって、そこには「家族」というシステムがない。毎年一回コンピュータで選ばれた住人が人工授精を受け、人口がコントロールされている。男性も希望すれば人工子宮を付けて受精できる。生まれた子供は15歳までセンターで管理される。ここに住む大人はすべての子供のお母さんになる。これが楽園エデンシステム」。主人公の夫婦は消滅しかかっている恋やセックスのまねごとを続けていたが、その限界に達し、恋のない世界に逃げようと千葉の実験都市にやってくる。そして夫が妊娠して、みんなのお母さんになって行く。主人公の母親は主人公に「あなたには愛し愛されて子どもを産むデータが残っている」というのだけれど…。

こんな物語だが、現に周りを見渡しても家族は崩壊して個の単位になりつつあるし、人工知能と共存していくとおそらくこの小説のような世界になるのではないか。男と女の関係は太古の昔から変わらないというけれど、人類の大きな転換期、危機? に晒されているように思えてくるのである。

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市川・荷風忌に行ってきた

毎年53日に市川市文学ミュージアムで開かれる。今年で8回目。私は初めて参加。講演は相模女子大学教授、南明日香氏の「荷風と明治の都市景観」と休憩を挟んで劇団俳優座女優、長浜奈津子氏のひとり語り「玉の井 大江匡とお雪」。

20世紀初め、荷風はアメリカとフランスに滞在、計画的に建設された都市に身を置いた経験から、大きく変貌する東京の姿に憤りを感じながらも、荷風流に街歩きを重層的に楽しんだ。『日和下駄』(1915年)の文章などをテキストにスライドを見ながらのお話。

長浜氏のひとり語りは着物姿に三味線。「六月末の或夕方である。梅雨はまだ明けてはいないが、……」と始まってアレッと驚いた。電車のなか、開演前にパラパラと『濹東綺譚』を読んでいたのだが、ちょうど読み終えたところから始まったのだ。長浜氏のお雪は優しく柔らかい。濹東綺譚』を繰り返し読んでいる私には、お雪のイメージが勝手に出来あがっているせいか、どうもぴたりとこない。もう少しちゃきちゃきの感じであって欲しかった。映画の山本富士子は本文には「あなた」とあるのを「あんた」と呼んで、こちらはかなり頑張っていたが、この女優も私の趣味ではない。220席ほぼ満員。私を含め白髪が目立った。

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2016年5月 4日 (水)

今金町の元気野菜が届いた

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北海道からハルさんが送ってくれた野菜。人参、かぶ、ラディッシュ、アスパラガス、野沢菜、小松菜、水菜、にんにく菜。特別な野菜ではないけれど、新鮮野菜がクール便で届くってとってもぜいたく。いつもの政田農園の野菜は6月末じゃないと手に入らないので、今金町の若い人たちが頑張って作っている野菜を送るね、と。うれしい限り。

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2016年5月 2日 (月)

2016荷風忌 荷風さんを偲んで歩いてきた

4月30日は荷風さんの命日。三ノ輪の浄閑寺で荷風忌が執り行われた。午前中、東向島のかつての玉の井界隈に足を伸ばし、『濹東綺譚』に登場する、細い路地裏の荷風さんが通ったと思えるお雪の家あたりを想像して散策した。荷風さんが初めて玉の井を訪れたのは『断腸亭日乗』によると昭和7年、54歳の時。当時の面影などもちろん皆無だが、東向島の駅前には昔ながらの個人商店が軒を並べ、下町の風情が色濃い。向島百花園の藤はもう盛りを過ぎていたけれど、荷風さんはじめ文人墨客が愛でたこの庭はきれいに整えられた気配がなく、自然な趣が残されているところがいい。

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午後1時30分からの法要と講演会。今年の演目は日本近代文学研究家の宮内淳子氏による「若き日の荷風と上海 父・漢詩・日本と中国」。宮内氏は荷風がご専門ではないとのことだったが、外国で過ごした作家たちを共同研究したなかで荷風の上海を担当されたとのこと。ざっくばらんなお話しぶりで、荷風年表から関連項目をシンプルにピックアップして示して下さり、たいへんわかりやすかった。

荷風は父親の仕事の関係で17歳の時に上海に遊び、19歳の時に「上海紀行」「滬(こ)遊雑吟」を発表、56歳の時も「十九の秋」で上海の思い出を好意的に書いているのだが、あいだの31歳の時に書いた「若き反抗心」では上海を散々にこけおろしている。このトーンの違いは何故か、と疑問を呈している。また、上記19歳と56歳の作品を、年齢差を考慮せずに並列で論じてしまったところは再検討の余地ありと自らの反省材料として語った。日中の関係、日清戦争や清朝滅亡、満州事変等との関連も興味深いものがありました。

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