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2013年12月17日 (火)

永井荷風『寺じまの記』を読む

荷風の『濹東綺譚』は何度読んでもおもしろい。そのつど新たな気づきがある。荷風はこの小説の舞台、玉ノ井を書くにあたって、綿密な取材をしている。いわばその取材メモから生まれた随筆が「寺じまの記」。浅草から乗合自動車(バス)に乗って見た風景、乗降客の年恰好、身なり、足の向くまま歩く玉ノ井の路地裏、窓の女たちの佇まいなどじつに詳しく、下町の風俗がみごとに活写されている。思わず地図を広げたくなる街歩き本のおもしろさもある。昭和114月に発表しているが、同時期に発表した「放水路」という作品のなかで荷風は次のように書いている。

「四五年来、わたくしが郊外を散行するのは、嘗て『日和下駄』の一書を著した時のやうに、市街河川の美観を論述するのでもなく、又、寺社墳墓を尋ねるためでもない。自分から造出す果敢(はかな)い空想に身を打沈めたいためである。平生胸底に往来してゐる感想に能く調和する風景を求めて、瞬間の慰藉にしたいためである。その何が故に、又何がためであるかは、問詰められても答へたくない。唯をりをり寂寞を追求して止まない一種の欲情を禁じ得ないのだと云ふより外はない。」

こうして名作『濹東綺譚』がうまれた。昭和1110月25日脱稿。翌12年4月6日から6月15日まで35回にわたって朝日新聞に連載された。

 

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